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【開催レポート】新しい学校の会 令和5年度教育シンポジウム「通信制高校の現在と未来」を開催

2024年04月01日

3月19日(火)、新しい学校の会(略称:新学会、理事長:桃井隆良)が主催する『令和5年度教育シンポジウム』(運営協力:ライセンスアカデミー)が4年ぶりにリアルで開催し、オンラインで同時配信されました。「通信制高校の現在と未来」をテーマに、基調講演やパネルディスカッションなどが行われました。

 

 

通信制高校の現状を知る

会の初めには、一色真司副理事長より開会挨拶がなされました。「新学会は、2005年の構造改革特区制度で認可された学校が集まって設立されました」と、新学会を紹介。「このようなシンポジウムを毎年開き、調査研究と社会への発信を行っています。ぜひ、本日の会をみなさんの今後に活かしていただければと思います」と述べました。

 

 

次に、山口教雄事務局長より新学会加盟13校による『第3回通信制高校卒業生アンケート調査結果報告』(調査期間:2023年10月中旬~24年1月中旬)がなされました。冒頭では、卒業生アンケート調査の概要を述べるとともに、同一フォーマットで3年間継続して行う新学会の計画を説明しました。3年計画の初年度となる本アンケート調査は、過去2年の調査から進路区分に短大と留学を加えた7区分で実施。調査対象は、卒業から2年経った2021年度卒業生と卒業から7年経った2016年度卒業生で、合計2,703人からの有効回答を得ました。

 

 

調査内容について山口事務局長は、「大きく3つの懸念点がある」とし、①全日・定時制高校に比べて卒業時「進路未定」率の高さ、②大学、専門学校進学者の退学率の高さ、③①及び②の退学後の「何もしていない」率の高さについて言及。調査データと合わせてこの3つの懸念点について説明しました。そのなかで、「『何もしていない』というのは、“働く”や“学ぶ”手前でどうすればいいか分からない状態です。特に卒業時『進路未定』の場合はこの状態が長引きます」とし、「高校時代から、相談などができるキャリアカウンセリングや地域若者サポートステーションなどにつながること、長いスパンで進路計画作りをしていくことが必要だと思います」と、調査をまとめました。

 

続けて行われた基調講演では、東京学芸大学名誉教授の小林正幸氏が登壇。『コロナと子どもたち―子どもたちの今―』と題し、専門である教育臨床心理士の観点から新型コロナウイルスが子どもたちに与えた影響についてデータを用いながら話されました。不登校が激増していることとコロナ禍の因果関係、東日本大震災といった災害の事例を基にこれから起こる影響を説明。「今、コロナは随分と楽になり、大人は率先してマスクを外しています。しかし、子どもたちにとってマスクをして過ごした3年間というのは非常に大きい」とし、「幼稚園児のように人生の大半をマスクで生活した子たちは、それが当たり前になってしまっています。当たり前の価値観の違い、3年間の間に学べなかったことがたくさんあることをわかって、学校は子どもたちを受け入れなければなりません」と述べました。その上で、「今後必要になるのは、“他者を怖がる感覚を克服すること”です。コロナ禍に育てられなかった心の成長ができる場を私たち大人は準備しなければなりません」と伝えました。

 

 

在校生・卒業生が話す「通信制高校」

休憩を挟んで再開された会の後半では、まず新学会会員校による自校紹介が行われました。松下博理事が進行を務め、各校の代表の教職員が自校の魅力を伝えました。

 

 

 

次に行われたパネルディスカッションでは、会員校の卒業生・在校生が今回のテーマでもある「通信制高校の現在と未来」についてそれぞれの思いを述べました。パネリストとして登壇したのは、高橋斐乃さん(鹿島学園高等学校卒)、中野愛理さん(日々輝学園高等学校在学)、山口恵理香さん(さくら国際高等学校卒)、天野のぞみさん(北海道芸術高等学校卒)、原田莉奈さん(第一学院高等学校卒)、亀谷銀海さん(明蓬館高等学校卒)、吉井丈一郎さん(ルネサンス高等学校卒)の7名。それぞれが通信制高校への入学経緯と得られた学び、現在の状況を話されました。

 

 

亀谷さんは、自身が描いた絵の展示・販売を行っているArty caféからオンラインで参加。「好きな絵を描くことに打ち込めたことで自分に自信が持て、今はアーティスト『GINGA』として活動できています。本当に感謝しています」と、自身の絵を紹介しながら話しました。

 

 

バレエダンサーとして高校在学時はロシア留学をしていた高橋さんは、「バレエ中心の生活だったので、ケガや体調不良で通えなくなる可能性を考えると全日制高校は不安がありました。バレエと勉強の両立ができたのは本当にありがたかったです」と、高校時代を振り返りました。

 

 

恩師のおかげで自己肯定感がついたと話すライターの山口さんは、「教室に入るのが怖くて泣いていた私のことを、恩師が『職員室にいていいよ。あなたは何も悪くないから』と肯定してくれたのを今でも覚えています。生きる強さの土台を作っていただきました」と、母校への感謝を述べました。

 

 

唯一の在校生として登壇した中野さんは、日々輝学園高校に進学を決めた理由を「制服があること」が大きかったと話しました。「海外にいたこともあって、制服は憧れでした。通信制高校の中には、ほとんど通わず制服がない学校もありますが、日々輝学園高校は週5日通い、教室もある。中学校と特別違いがないのも良かったです」と話しました。

 

 

現在専門学校に在学中の吉井さんは、高校時代に「eスポーツコース」に所属していたことが今の進路を決めるきっかけになったといい、「自分の好きなことを応援してくれたので、将来やりたいことが見つけられました。今はゲームに映像分野で関わりたいと思い、専門学校で勉強しています」と話しました。

 

 

通信制高校の自身の視点で話したパネラーですが、改善してほしいところについては、「認知度の低さ」「自主性が必要」「進路実績が不透明」などの意見がありました。

 

第一学院高校に転校した当時を振り返った原田さんは、「在学中に感じた改善してほしいところはありません」とした上で、「ただ入学前のイメージとして、全日制高校とは違うというラインがありましたし、卒業後に通信制高校に通っていたことを言いづらいという雰囲気も感じています」と伝えました。そして、「実際に通ってみると、良いところはたくさんあるので、それを伝えていけたらよいと思います」と話しました。

 

 

オンラインで参加した天野さんは、「いろいろな特徴のある学校があるけれど、通信制高校出身だと学力が低いと見られて、書類で落とされることもありました」と就職の時の苦労を話し、「ただ、そうした考えも私たち通信制高校出身者が今後活躍していけばなくなると思いますので、私自身も頑張っていきたいと思います」と述べました。

 

 

司会を務めた桃井理事長は、「みなさんにたくさん通信制高校の良さを話していただき、改めてネガティブな印象をもっとなくしていかなければならないと感じました」と、パネルディスカッションをまとめました。

 

 

その後、日野公三理事と鈴木康弘理事が会全体の講評を行いました。

 

会の最後には、大森伸一代表より閉会挨拶がなされました。開催への感謝を述べるとともに、「ノーベル物理学賞を受賞したドイツのアインシュタインは、人に評価されるというのは一生懸命、人のために働くということだという言葉を残しています。ぜひ、通信制高校出身の皆さんも目標に向かって歩み、人のために活躍していってほしいと願っています」と述べ、閉会となりました。