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第3回 大学“退学”を見越した進路観 『通信制高校卒業後はどうなってるの?』(6回連載)

2024年05月07日

◎「やりたいことがない」という大学志望動機

今回は、通信制高校を卒業して大学進学した卒業生のその後の進路変遷についてご説明します。

ところで、学びリンクの通信制高校・サポート校合同相談会では「通信制高校から大学進学」をテーマにした講演を駿台教育研究所、河合塾の進路担当の方に行ってもらっています(※)。人気講演の一つです。
その講演を聞くと、大学受験環境が変わってきていることがよくわかります。

まず大学受験人口と入学定員の関係が変わりました。受験人口のピークはいつかと言うと、1991年度ということです。現在50歳から51歳ぐらいの人が受験した年で、受験者数は約122万人、それに対して入学定員数は約80万人。保護者世代の皆さんとも重なるかもしれませんが、かつてこの世代を“団塊ジュニア”と呼びました。現在の40代後半から50代前半の方は、日本の人口構成のボリュームゾーンです。

受験人口ピーク時は、3人に1人が大学に入れない状態でした。ところが、24年度は受験者数約63万人に対して入学定員数は約68万人になったということです。つまり定員数が受験者数を上回っています。いわゆる“大学全入時代”です。かつてに比べればだいぶ入りやすくなっています。

また、こんな見方もあります。ピーク時の学部名は、文、法、経済、商、理、工、農、医で漢字「一文字」「二文字」で、大学数は約500。現在は、ひらがな・カタカナまじり、こども、グローバル、メディア、マネジメント、コミュニケーションなどが含まれ学際的・文理融合型となり、大学数は約800。

人文科学、社会科学、自然科学、医療系、実技・技能系と分類される学部の「どこにも属さないが、どこにも属している」学際的・文理融合型学部の比重が高まっています。現在は“一粒で二度おいしい”学び方ができることにもなります。

講演をしてもらってきた駿台教育研究所の吉井健二さんは、なぜ大学に行くのか? という問いにこう答えてくれました。「将来やりたいことがまだ具体的に決まっていない。それも立派な志望動機の一つです」。私は、この言葉に深くうなずく者の一人です。志望校選びのこの機会が、将来自分に合う方向がどんなものか探る機会にも通じていると思います。そして大学4年間を右往左往することでやりたいことが見えて来る場合があるような気がします。

※「通信制高校からの大学進学」講演の行われない会場もあります。

◎大学生活後半に退学への“鬼門”!?

前置きが長くなりましたが、新しい学校の会(新学会)第3回通信制高校卒業生アンケート調査の卒業時大学進学率を見ると、下の表のように2021年度卒業生(卒業2年後)の大学進学率は約33%(463人)、16年度卒業生(卒業7年後)は32%(421人)でした。通信制高校卒業後の進路として大学進学率の高まりが見られます。
通信制高校全体の大学等(短大進学者を含む)進学率は22年度で約24%となっていますから、調査サンプルは大学進学率が高くなっています。






表1で見るように21年度卒業時大学進学者の卒業後2年間の途中経過で最も多いのは「在学中」(約95%)の人たちです。「退学した」という人は3%(14人)となっています。大学退学率は、2~3%とされます(※)からこの間の退学率は大学平均程度と見られます。

※出所:文部科学省先導的大学改革委託推進事業「経済的理由による学生等の中途退学に関する実態把握・分析等及び学生等に対する経済的支援のあり方に関する調査研究」

表2の「退学した」という人の2年後現在の状況を見ると「在学中」と再入学した人や「在職中」「アルバイト」などの動きが見られますが、「何もしていない」という人も約43%となっています。「何もしていない」人の自由記述回答を見ると「就職先を探している」「Webデザイナーの勉強中」などこの時点では前向きなものも目立ちます。

一方、16年度卒業時大学進学者の卒業後7年間の途中経過を見ると、「卒業した」という人が約72%で最も多くなっています。「在学中」という人も約5%です。さらに大学院等へ「進学した」人も約2%となります。

この7年間のうちに「退学した」人は約20%(85人)と大学退学率平均に比べるとかなり高い比率になっています。「退学した」85人の7年後現在を見ると、「在職中」という人が最も多く約45%を占めていますが、次に多いのは「何もしていない」という回答で約38%となっています。大学生活後半に“鬼門”があり何らかの理由で退学し、そのまま「何もしていない」状態になっていると推測できます。

ちなみに「何もしていない」とは“働く”や“学ぶ”手前でどうすればいいのか分からない状態ではないかと見ています。ちょっと苦しい状態ではないでしょうか。

退学後から7年後現在「在職中」という人の自由記述回答を見ると、「子どもが5歳になり、来年度から中古車販売店開業予定」「フリーランスとして映像編集の仕事に従事」「測量士国家資格合格を目指し現場で経験を積んでいます」「事務職に就き毎日通勤」など活躍している様子があります。
また「アルバイト」約9%の人たちも「独学で簿記の資格をとり税理士法人でパートとして税理士補助をしています」「起業を目標にしています」「結婚し子どもがいて平日パートで働いています」などの回答が寄せられています。

「大学退学」→「在職中」「アルバイト」という人たちはそれぞれの場で充実した生活を目指しているように見られます。進路変更したあとにそれぞれに合った居場所ややりがいにつながれる工夫をしていると思われます。

「何もしていない」という人からのコメントは少ないです。大学進学後に退学するのは不測の事態とも言えますから、働くにしろ、再入学するにしろ、それに対する準備がほとんどないのかもしれません。「定期的に通院中」という回答者は母校への要望として「これからも不登校生の受け皿になってください」と伝えています。難しい面もありますが、この回答者層の実情を把握することが重要と思っています。
欲を言えば、大学退学(進路変更)を見越した進路観を高校時代につくれないかと思います。例えば、通学に無理が出てきそうなら通学と通信教育課程両方のある大学、あるいは当初から通信制大学を考えてみるというのもありかと思います。

通信制高校合同相談会で大学進学講演・相談をしてくれている平野稔さん(元河合塾)は、大学入試対策もさることながら「入るための準備とやめないための準備をしておくことが大切」と言います。
入るための準備とは体のリズムを整えること。やめないための準備とは対人コミュニケーション、家族以外の人と話し自分を説明することです。
大学に通い続けるための準備は、日常生活をていねいに送ることにもつながってゆきます。

下の図1は、大学中退した人に中退理由を11の理由から4件選択(当てはまる・まあ当てはまる・あまり当てはまらない・当てはまらない)で聞いたものです。上位項目は「勉強に興味や関心を持てなかった」を筆頭にした学業に関するものです。どこの大学・学部だったら自分が学業についていけるかを見極めるのも大切だということをものがたっています。

図2は、大学中退者に在学中に受けた支援と、これがあれば中退しなかったと思われる支援をたずねたものです。在学中に受けた支援は、貸与奨学金(約10%)と心理的相談(約7%)が比較的高い比率になります。
これがあれば中退しなかった支援としては、心理的相談(約32%)、授業料免除(約22%)、学習支援(約21%)、キャリア相談(約17%)などが高い比率を占めています。心理的相談は、在学中にもある程度受けている人がいることを思うと他の支援項目に比べてもより強く求められています。






※文中にある「卒業後2年後」「卒業後7年後」とは、調査時期の関係で前者は卒業後1年8カ月~10か月、後者は6年8カ月~10か月の時期になります。

文責:新しい学校の会事務局長 山口教雄(学びリンク代表)