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「進路決定が高校生時代最大の経験になる」(第4回通信制高校卒業生アンケート調査より)

2025年03月24日

「気になりますね!通信制高校」
卒業後を見越した在学中の進路指導力①
進路決定が高校生時代最大の経験になる

◇◇「卒業後を見越した在学中の進路指導力」(4回連載)
第1回 進路決定が高校生時代最大の経験になる

 

◎通信制高校卒業生調査からわかった4つのこと




私が事務局長を務めている通信制高校を中心とした団体「新しい学校の会」(桃井隆良理事長)は、2021年度から通信制高校卒業生アンケート調査を実施しています。
24年度調査には4,123人の卒業生が回答を寄せてくれました(本稿末に調査概要)。

通信制高校卒業生アンケート調査を行うことによって卒業生の実情が数値として定量的に把握できました。
そこでわかったことは、図1で見るように次の4つのことです。
①定量調査の必要性
②通信制高校卒業生の誰もが「何もしていない」状態になり得る
③「進路未定」は最大の経験機会喪失の場合がある
④在学中進路指導に卒業後を見越した進路指導を加味することが有効

通信制高校卒業生アンケート調査からは、本稿のテーマである卒業時進路未定だった人は20代半ばでもその多くが「何もしていない」状態となっていることがわかりました。
また、大学や専門学校進学後の退学率が一般学生に比べ高いこと、またその退学者の一定割合がその後「何もしていない」状態になっていることが明らかになりました。「何もしていない」とは“働く”や“学ぶ”手前でどうすればいいのかわからない状態とされます。
これまで4回にわたる調査結果から通信制高校卒業生の誰もが「何もしていない」状態になり得ることがわかりました。

通信制高校は不登校経験者が入学者の56%から59%(※)を占めているため、学校生活などを通じた経験が不足しがちです。このため通信制高校側も体験学習や行事などを実施しさまざまな経験ができるように工夫しています。なかでも高校生時代に最大の経験となるのが本来は進路決定ではないでしょうか。
自らの意志で、自らの進路を決定するのはちょっとしんどいですが次へつながるチャンスのような気がします。「進路未定」とは、このせっかくの経験機会を素通りしてしまった状態かもしれません。

現状では卒業後に誰もが「何もしていない」状態になり得ることを念頭に置いた卒業後を見越した在学中の進路指導が通信制高校に求められています。
学校選びの際には卒業後進学した学校名や就職した会社名などに興味が向きがちですが、「進路未定」を含めた卒業時進路比率もぜひ確認してください。

※出所:「私立通信制高等学校実態調査報告書」(2023年1月全国私立通信制高等学校協会)、「通信制高校生徒・保護者アンケート調査報告書」(2014年12月 新しい学校の会)

◎経験を積むことで先が見える







卒業時進路未定者の卒業後の経過を見ると、卒業2年後の2022年度卒業生は大学や専門学校への進学、就職など活発な様子があります。

表1で見てもらうように卒業時進路未定だった人は、22年度卒業生では2年間の経過のなかで42%の人が「何もしていない」状態となり、このうちさらに2年後現在も59%の人が「何もしていない」状態となっています。
17年度卒業生では7年間の経過のなかで34%の人が「何もしていない」となり、このうちさらに7年後現在も52%人が「何もしていない」状態です。「何もしていない」状態が固定化してしまう傾向があります。

卒業2年後の人からは母校へ期待することとして「卒業後も進路相談できると助かる」という回答が複数あり目立ちました。卒業7年後の人からは「卒業後の進路相談など、どうすればいいかわからなかったのでアドバイスして欲しかった」という要望がありました。また、「社会に適用できない卒業生の対応例があれば些細な事でも情報を頂きたい」という切実な要望もありました。

「卒業後も進路相談できると助かる」。これは、ある時点で「何もしていない」状態になった人たちから毎回聞かれる母校への要望です。苦戦している状況を打開するために誰かに相談するなら、まず母校の先生方の顔が思い浮かぶのでしょう。現時点で、卒業生の相談窓口が置かれている学校は一部だけですが開設が求められています。

一方、卒業時進路未定だった人が卒業後特定の進路を選択した場合どうなるかを表2の「就職」した人から見てもらいます。
2年後現在の状況を見ると「在職中」が87%を占めています。7年後現在を見ると「在職中」が99%を占めます。2年間あるいは7年間の経過のなかで同じ会社にずっと勤めてきたのか、転職したのかは定かではありませんがともに「何もしていない」という状況の人は少なくなります。

この場合「就職」した経験がスキルにもなり社会で生きていくために必要な職業観を育てたものと思われます。この面からも経験することで、どんなことが自分に向いているか具体的に知るきっかけになり動き続ける原動力になっているように思います。


 

(新しい学校の会 第4回通信制高校卒業生アンケート調査 ―概要― )

通信制高校卒業生アンケート調査の調査対象は、新学会加盟11校の卒業後2年後と7年後の卒業生を対象としています。卒業後2年後の卒業生は少し前までの成人の20歳程度、7年後卒業生はある程度社会で自立・安定しているだろう25歳程度を想定しています。通信制高校卒業後、一定期間のなかで社会参画の状況の変遷を追っています。有効回答数は合計4,123人(卒業2年後、2022年度卒業生:2,914人、卒業7年後、2017年度卒業生:1,209人)でした。調査期間は2024年10月中旬~2025年1月中旬。Web調査と電話ヒアリング調査を併用しています。

※「卒業後2年後」「卒業後7年後」とは、調査時期の関係で前者は卒業後1年8カ月~10か月、後者は6年8カ月~10か月の時期になります。



今回は、「進路決定が高校生時代最大の経験になる」についてご説明しました。いかがだったでしょうか?
次回は「大学進学は入るための準備とやめないための準備」についてご説明します。

次回もどうぞよろしくお願いします!